迷惑施設とは何か

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事業者・利用者・地元という3人のプロデューサーが協力して,価値を創り出すのですが,3者の関係は決して対等ではありません。
共同プロデューサーであっても,利用者と地元の間に普通は直接的な取引は生じませんが,事業者は,利用者とも地元とも取引関係にある,まさに扇の要なのです。
ようするに,事業者がカナメであり,3者の関係性への影響力は大です。

 

取引とは,【交渉 + 選択】です。
事業者は,利用者に対してと地元に対しての2方向の取引関係にあるわけですが,このうち,事業者vs利用者の間には,交渉と選択があります。
事業者は利用者に対して,利用条件や利用資格を提示します。
利用者は,事業者の提示内容と自分の希望を照らし合わせて,自分の希望を最も満足する保育園を選ぶでしょう。
事業者としては,利用者を集めるために利用者の希望を調べて利用条件等を決めているであろうし,利用者が集まらなかった場合には利用条件等を変更して,利用者の満足度を増すようにするでしょう。
このような互いの腹の探り合いが,交渉と選択であり,そのプロセスを経て事業者と利用者の双方が最適な条件にて関係性を構築できるのです。

 

ところが,事業者と地元との間には,対等な関係の積極的な交渉と選択が成立しづらいのです。
事業者と地元との関係性は,立地を承認するか承認しないかの二者択一になりがちです。
まずは共同プロデューサーという意識を持つこと,そこから交渉が始まります。
地元と立地に関する合意が成立したということは,地元と事業者が共同プロデューサーとしての関係性を構築できたということです。

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ここまでの説明で,迷惑施設の本質は理解できた思います。
とにかく3者を共同プロデューサーと位置づけ,それぞれがそのことを自覚するように誘導することです。
地元は,共同プロデューサーと位置づけられずに同意を求められれば,「反対」としか答えようがないのです。
つまり,価値創出構造を理解して貰い,その上でそれに参加して貰うことが,共同プロデューサーということなのです。

 

共同プロデューサーは,当然に創り出された価値の分配に与る権利があります。
価値の分配を実現する手段としては,産廃の例では同意書の「ハンコ代」などという話がありました。
でも,そういうことは地元コミュニティーに不和をもたらしたり,タカリ構造を出来することが往々にしてありました。
最初から共同プロデューサーになり得ない,反対のための反対運動家や,政治や選挙に利用しようという輩まで現れます。

 

自治会館の改修を負担するとか,公園のような緩衝緑地を整備するとか,個人を対象としない形の分配を行う事業者もあります。
これは比較的うまく行くことが多いです。
中には,地元と話し合いをして,事業に関する様々な制限や,環境保全策の実施などの条件を課せられることで,地元の同意を取り付けることがあります。
さらには,公害防止協定あるいは環境保全協定を,事業者と地元コミュニティーの間で締結する例もあります。
これらも,その事業活動が創り出す価値の分配であり,共同プロデューサーという関係性が成立していると言えます。

 

廃棄物処理施設の立地においては,地元の同意で苦労を重ねてきた歴史があります。
一般廃棄物でも産業廃棄物でもです。
そうした歴史を踏まえて,廃棄物処理法は,反対のための反対運動ができないような規定が設けられるようになりました。
それが効果を現し,いまでは地元同意は廃棄物処理施設の設置における最大の難関ではなくなっています。

 

共同プロデューサーとしての事業者と地元との関係性を,立地時の一回で終わらせず,継続的に確保する策が参加です。
地元を事業に参加させることです。
環境保全協定もそうですが,連絡会議もまた参加のための仕組みです。
地元と事業者が話し合う場を設け,事業状況を監査し,問題解決に取り組み,価値の分配(リソースの配分)を決める,などのことを決定し実施して行く。
廃棄物の分野では,そうした連絡会議を設置することで地元と良好な関係を構築しているケースがあります。

 

ちょっと昔に話題になったことで,アメリカの化学工業界が進めたCAPs: Community Advisory Panelsがあります。
化学工場は,やはり迷惑施設として地元と良い関係を構築することが難しいのですが,その対策としてCAPs(直訳すれば「地域助言会議」)を設置するというものです。
CAPsを通じて地元とのコミュニケーションを重ねることで,化学工場と対立する地元感情が,時には化学工場の応援団になることが報告されています。

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