【離乳栄養法-2】~今も昔も~離乳食のスタートは粥汁から❣

【奈良時代~江戸時代】

奈良時代から江戸時代までの離乳食は、その頃の書物や育児書―日本書紀、医心方、小児養生録、小児必用養育草、愛育茶談などーによると、乳汁以外の食物は粥汁のような穀物が主で、離乳開始は生歯と結びついて生後6か月頃であり、乳汁を全く与えなくなる離乳完了期は2~5歳(数え年)である。

江戸時代になってからは、社会が長期にわたって安定し、人々の生活水準が大きく向上した。とりわけ中期以降、都市には町人階級が勃興し、農村には富裕な農民層が出現した。他方で印刷技術の進歩に伴って書籍が増え、これら新たな階層の人たちを対象に、多種多様な出版物が流布していった。日常生活のなかで、公家や武士だけでなく、商人や職人、農民などの庶民にも、文字を学ぶ必要が生まれたのである。庶民と文字の歴史は鎌倉・室町時代の仮名文字の浸透に始まり、江戸期には、本屋や貸本屋の増加によって、町人を中心に文字文化が広く浸透したとされている1。そうした社会情勢を背景として、心身両面の発達2に特別な配慮をしながら子育てをしようとする動きが活発になり、多くの育児書が世に送り出された。このような育児書は、次の二種類に大別できる3

① 訓育系育児書
儒教道徳を基盤として、親・家・社会に対する子供の義務、とりわけ男女別のしかるべき役割、資質を身につけさせるためのもの。

② 医療系育児書
心身の健全な発育のために、主として医療上の関心から書かれたもの。男女の区別や道徳的な訓育はあまり重視されないが、健康に成長すること、親から授かった体を大切にすることは、それ自身孝行に通じる。だからその根底には儒教道徳的な関心はあるが、それが前面に出て記述を導いてはいないもの。

今回は、②を参考文献とした。この育児書通りにもし実施されていたとすれば、離乳開始は、生後6か月頃であり、離乳完了期は2~5歳(数え年・満年齢で1歳~4歳)のはずである。

しかし、当時の庶民の離乳食に関する実施調査はなく、実際に育児書通りに行われていたか否かの検証は難しい。この時代の子どもたちが実際にどのような人生を送っていたかについて知ることは困難で、子ども自身の記録や行動が歴史的文献や考古遺跡に残ることは稀である。ところが、江戸時代の遺跡から出土した子供の骨に安定同位体分析という手法を適用することで、当時の実際の離乳年齢を復元した生物考古学(bioarchaeology)の研究が最近見られるようになった4。それによると、子供観が変化して3年以上の授乳期間を推奨する育児書が盛んに出版されるようになった時期に、庶民の授乳期間はかえって2年程度と短くなっていたことが明らかになったのである。この研究によれば、江戸時代18世紀以降の庶民の実際の授乳期間は育児書に推奨された期間とは一致していない。さらに人類学的には霊長類一般は、離乳期は大臼歯が生え始めると時期と離乳が一致するが、ヒトの離乳はもっと早くに起こる。この理由としてたまたま離乳が早く出産間隔が短いという特徴を遺伝的に持った個体が、乳児死亡率が高いというサバンナの環境に適していたため、個体がより多くの子どもを残すことができた。したがって、徐々に短い離乳期間をつかさどる遺伝子が人類祖先の集団全体に広まったためとされる5。つまりヒトは、大臼歯がまだ生えていない乳児に離乳食を与えるのである。しかしほぼ1年間の授乳期間後の大臼歯がまだ生えていない乳児は、大人と同じものを食べることが出来ない。このため親や年上の人々からやわらかいもの例えばエネルギー源として甘い果実や糖蜜、たんぱく質源としてシロアリなどの離乳食が与えられていたと考えられている5

 以上を考え合わせると、乳歯は生後5~6か月に生えはじめ、2歳半~3歳で生えそろうことから、江戸時代もほぼこの頃に離乳食が与えられていたと推測される。

今後の研究成果により、離乳の歴史に関してさらなる知見が得られることを期待したいですね。

【引用ならびに参考文献】

1杉本つとむ、1982、『ことばの文化史』、桜楓社。

2前田晶子、2000、「江戸後期の医学における子ども認識―小児科医と西洋発達概念の出会いー」、『日本の教育史学』、第43巻、6-23。

3梶谷真司、2007、「江戸時代の育児書から見た医学の近代化―桑田立斎『愛育茶譚』の翻刻と考察―」、『帝京国際文化』、第20号、65-118。

4蔦谷匠, 2019,「江戸時代の子育ては育児書の推奨に従っていたか? – 遺跡から出土した骨の安定同位体分析でわかること」,academist Journal

https://academist-cf.com/journal/?p=12007#fnref-12007-1%20%EF%BC%882 https://academist-cf.com/journal/?p=12007#fnref-12007-1%20%EF%BC%882

(2022年10月23日アクセス)。

5山極寿一、2016、「共感社会と家族の過去、現在、未来」、『人類の社会性の進化(Evolution of the Human Sociality)』、(下)、本郷峻編(アイカードブック) 岩波書店、(Kindle No.656-657)。

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