WHO第14次活動計画(2025年~2028年)と日本
2023年に実施された「乳幼児身体発育調査」で、日本の生後1か月児における母乳栄養の割合が大幅に減少したことが明らかになりました。この調査は、かつて厚生労働省が実施していましたが、現在はこども家庭庁が所管しています。 現時点では、この減少についてこども家庭庁から公式な見解や、特定の対策に関する発表は確認されていません。

母乳育児推進の背景と日本の施策
日本政府は、WHOとユニセフが提唱する「母乳育児を成功させるための十か条」に基づき、一貫して母乳育児を推進してきました。しかし、2023年には驚くべき母乳率の低下が示されました。その要因として
- 新型コロナウイルス感染症の影響: パンデミック期間中の医療機関での面会制限や両親学級の中止などが、母乳育児に関する十分な情報や支援を得られない状況を生んだ可能性。
- 医療機関の個別対応: 母親や赤ちゃんの状態に合わせて、混合栄養や人工栄養が推奨されるケースがある可能性。
- 社会環境の変化: 働く女性の増加に伴い、育児と仕事の両立の観点から混合栄養や人工栄養が選択されるケースが増えた可能性。
などが考えられますが、これらの要因を含め様々な検討を迅速に実施し、母乳育児を希望する母親が安心して実践できる環境を整備していくことが、こども家庭庁に求められています。
国際的な動向と日本の課題
WHOは、母乳育児推進に関する目標を更新し、「生後6カ月までの完全母乳育児率を2030年までに少なくとも60%に引き上げる」ことを新たな目標としました。
また、最新の国際的な動向として、以下の点が注目されています。
- デジタルマーケティングの規制: 第78回世界保健総会(WHA78)では、「母乳代用品のデジタルマーケティング規制」に関する決議が承認されました。
- 気候変動との関連性: 2025年の世界母乳育児週間(WBW2025)のテーマは「環境と気候変動」です。人工乳のサプライチェーンが環境に与える負荷に比べ、母乳育児は環境負荷が低いという視点から、母乳育児が気候変動対策にも貢献するという新しい論点が提示されています。
このような国際的な動きの中で、日本が母乳育児推進に関してどのような目標を設定し、実行していくかが問われています。
【参考資料】
世界保健機関(WHO)の第14次活動計画・GPW14(2025年~2028年)の主な方針
-A Global Health Agenda for 2025-2028: Advancing Equity and Resilience-
6つの戦略目標
①気候変動への対応:21世紀最大の健康上の脅威である気候変動に積極的に対応する。
②健康の決定要因への対処:様々な分野の主要な政策において、健康の決定要因や
不健康の根本原因に取り組む。
③ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進:プライマリ・ヘルスケアと、ユニバーサル・
ヘルス・カバレッジに必要な医療制度の向上。
④公平性の改善:不公平やジェンダーの不平等に対処するため、医療サービスと財政的
保護の対象範囲を改善する。
⑤健康リスクへの備え: あらゆる危険源から生じる健康リスクを予防、軽減し、備えるため
の態勢を強化する。
⑥健康上の緊急事態への対応 : あらゆる種類の健康上の緊急事態に対し、迅速に
検知し、効果的な対応を持続的に行う。
これらの目標は、すべての人々の健康と福祉を促進、提供、保護するというWHOの包括的なビジョンを実現するために設定されている。
乳児栄養に関しては、新しい情報として、
①第78回世界保健総会(WHA78)で「母乳代用品のデジタルマーケティング規制」に関する決議が承認されたことである。これは、母乳育児を保護・促進する上で、重要な動向とされている。
②以前の目標である「生後6カ月までの完全母乳育児率50%」が、今回のWHO決議で「少なくとも60%に引き上げる」という目標に更新され、2030年まで延長された
③「授乳開始後1時間以内の母乳育児」と「母乳育児カウンセリングの利用可能性」といった、より具体的な新しい指標が追加された。
④さらに気候変動と母乳栄養の関連性の問題提起は特に注目されている。
興味深い新知見として、2025年の世界母乳育児週間(WBW2025)のテーマが「環境と気候変動」であること。これは、母乳育児が人工乳のサプライチェーンに比べて環境負荷が低いという視点から、GPW14の主要目標である「気候変動への対応」(上記①)と結びついているという、新しい論点を提供している。母乳育児の推進にこの視点を取り入れることは、GPW14の全体的な戦略を理解する上でも非常に重要である。
資料:「世界保健機関(WHO)の第14次活動計画・GPW14(2025年~2028年)の主な方針 」-A Global Health Agenda for 2025-2028: Advancing Equity and Resilience- https://cdn.who.int/media/docs/default-source/documents/about-us/general-programme-of-work/global-health-strategy-2025-2028.pdfWHO出版物ページ:https://www.who.int/publications/b/74927
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