第4章 産廃ブランド調査
今日の産業廃棄物に関する問題の多くが,次のことに帰せられるものと認識されていることを見てきた。
- 不法投棄が不法投棄を誘発する悪循環があること
- 不法投棄・不適正処理をするポテンシャルが高い産業廃棄物処理業者があること
- 事業者は,不法投棄・不法処理をするポテンシャルが低い産業廃棄物処理業者を選好しないことがあること
しかし,産業廃棄物処理サービスの買い手である事業者と,売り手である産業廃棄物処理業者の関係構築の過程については,これまで組織的な調査はほとんど実施されて来なかった。そこで,産業廃棄物処理業に関する価値基準や,産業廃棄物処理業者が事業者によって選択される仕組みなど,産業廃棄物処理業者と事業者の関係構築のメカニズムを知るために,アンケート調査を実施することとした。
1 アンケート調査の方法と対象
(1) インターネットを利用したアンケート
アンケート調査の実施にあたっては,楽天リサーチ(株)のネットアンケートシステムを利用した。これは,大手インターネットショッピングサイトである楽天が運営する電子アンケートシステムである。依頼者が設定した質問項目に沿ったアンケートページをウェブサイトに置き,ここに回答を集める。アンケート調査対象者としては,楽天会員の中からモニター登録した会員を含めることが出来る。
(2) アンケート調査対象者
アンケート調査は,産業廃棄物処理者と,事業者の2方面に対して実施した。実施時期は,2009年9月であった。
ここで産業廃棄物処理業者としてアンケートの対象としたのは,産業廃棄物処理業に従事する個人である。まず産業廃棄物処理事業振興財団が運営する「産廃情報ネット」その他のシステムに公開されている産業廃棄物処理業者に対し,処分業・収集運搬業の区別や地域割りなどを一切せずに協力依頼文書を郵送し,ウェブアンケートへの協力を募った。約4,000に協力を依頼して,211の回答が得られた。なお,対象とする産業廃棄物処理業者について,業態の区別を行わなかったのは,処分業から収集運搬業へ,あるいはその逆の移行は比較的多く,また,多くの処分業者は収集運搬業の許可も合わせて取得しているからである。また,そのことにより,事業者による評価にしても,収集運搬業の側面に対する評価と処分業の側面に対するそれを区別することは困難である。
事業者としてアンケート対象としたのは,産業廃棄物を排出する企業において産業廃棄物に関する業務に関与している個人とした。まず,楽天リサーチのモニター会員(公称200万)のうち,製造業や建設業などに従事していると登録されている者を抽出し,予備アンケートを行って業務での環境保全の有無を尋ねた。これに対して729名が産業廃棄物の関連業務に携わっていると回答した。それら回答者に対してemailでアンケート協力を依頼し,500件に達するまで回答を集めた。
(3) アンケート項目
質問項目は,産業廃棄物処理業者用と,事業者用のものを別々に用意した。一部の質問項目は,両者で共通である。質問項目の設定にあたっては,なるべく単純で回答しやすい構成とすることを心掛けた。ウエブアンケートにおける質問項目を表 9に示した。
表 9 アンケート項目
排出事業者向け質問項目
回答者プロファイルを伺います。差し支えのない範囲で回答して下さい。 | ||
1 | 氏名※ | |
2 | 所属会社名※ | |
3 | 会社の業種 | |
4 | 会社所在地(都道府県・市区町村まで) | |
5 | 職位 | |
6 | 電子メールアドレス※※ |
※差し支えなければ回答をお願いします。 ※※集計結果を電子メールでお知らせします。
あなたは、会社内で産業廃棄物とどのように関わっていますか。該当するものに○を付けて下さい。(○はいくつでも) | ||
1 | 処理業者選定の責任者を務めている | |
2 | 処理業者選定のための情報収集をしている | |
3 | 処理業者との交渉を担当している | |
4 | 処理業者選定のための事務を担当している | |
5 | 産業廃棄物の排出工程の管理を担当している | |
6 | マニフェストなど日常の管理を担当している。 |
処理業者を選ぶ際に重要視する事項に○を付けて下さい。(○は5つまで) | ||
1 | 処理価格 | |
2 | 処理業者の会社規模 | |
3 | 処理業者の社会的評判・社会的イメージ | |
4 | 処理業者の経歴・実績 | |
5 | 処理業経営者の姿勢・人柄 | |
6 | 処理業者のスタッフの能力・対応 | |
7 | 処理業者の施設・機材 | |
8 | 処理施設の立地 | |
9 | 処理業者のリサイクル能力 | |
10 | 処理業者間のネットワーク |
ご存じの範囲で、優秀だと考えられる産廃処理業者を3社まで挙げて下さい。 | ||
1位 | (収集運搬・処分・両方) | |
2位 | (収集運搬・処分・両方) | |
3位 | (収集運搬・処分・両方) |
上の設問で1位の処理業者に関して、以下の各項目について5段階で評価してください。 | ||
1 | 処理価格 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
2 | 車両・コンテナ等の収集運搬機材 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
3 | 中間処理施設 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
4 | 埋立処分施設 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
5 | 受入能力(容量) | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
6 | 技術力 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
7 | 専門性 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
8 | 対応できる廃棄物範囲の広さ | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
9 | リサイクル指向 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
10 | 将来にわたる安定性・継続性 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
11 | 営業マンの能力 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
12 | 廃棄物管理態勢 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
13 | 情報発信・情報管理 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
14 | 環境マネジメントシステムの取組み | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
15 | 企画・提案能力 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
16 | 処理業者の取引先のスジ | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
上の設問で1位の処理業者は、あなたの会社が委託している業者ですか。 | |||
処分を委託している | (はい・いいえ) | ||
収集運搬を委託している | (はい・いいえ) | ||
委託していない場合には、その理由は何ですか。該当するものに○を付けて下さい。 (○は3つまで) | |||
価格が折り合わない | |||
系列取引の問題がある | |||
自社の必要とする技術を持っていない | |||
自社の必要とする許可を持っていない | |||
社内の調整の問題 | |||
その他 | |||
産業廃棄物処理業者向け質問項目
回答者プロファイルを伺います。差し支えのない範囲で回答して下さい。 | ||
1 | 氏名※ | |
2 | 所属会社名※ | |
3 | 会社所在地(都道府県・市区町村まで) | |
4 | 職位 | |
5 | 電子メールアドレス※※ |
※差し支えなければ回答をお願いします。 ※※集計結果を電子メールでお知らせします。
あなたの会社(産業廃棄物処理業)のプロファイルを伺います。 | ||
1 | 主に取り扱っている産業廃棄物 | (建設系廃棄物・工場系廃棄物・両方) |
2 | 主として行っている産業廃棄物処理の工程 | (収集運搬・処分・両方) |
あなたの会社の経営戦略について、該当するものに○を付けて下さい。 | ||
1 | 価格競争力を確保する | (実行している・心がけている・考慮していない) |
2 | 他社とは異なる処理サービスを提供する | (実行している・心がけている・考慮していない) |
3 | 多様な廃棄物に対処できるようにする | (実行している・心がけている・考慮していない) |
4 | 専門性を高める | (実行している・心がけている・考慮していない) |
5 | 施設・機材を充実する | (実行している・心がけている・考慮していない) |
6 | 営業に力を入れる | (実行している・心がけている・考慮していない) |
7 | 広告や情報発信に力を入れる | (実行している・心がけている・考慮していない) |
8 | 吸収合併による経営規模拡大 | (実行している・心がけている・考慮していない) |
9 | 同業他社との協力関係構築 | (実行している・心がけている・考慮していない) |
10 | 廃棄物処理以外の分野に軸足を移す | (実行している・心がけている・考慮していない) |
知っている範囲で、優秀だと考えられる産廃処理業者を3社まで挙げて下さい。 | ||
1位 | (収集運搬・処分・両方) | |
2位 | (収集運搬・処分・両方) | |
3位 | (収集運搬・処分・両方) |
上の設問で、1位の処理業者は、あなたの会社ですか。 | (はい・いいえ) |
上の設問で1位の処理業者とあなたの会社に関して、以下の各項目について5段階で評価してください。 | |||
1 | 処理価格 | 1位社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
自社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) | ||
2 | 車両・コンテナ等の収集運搬機材 | 1位社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
自社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) | ||
3 | 中間処理施設 | 1位社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
自社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) | ||
4 | 埋立処分施設 | 1位社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
自社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) | ||
5 | 受入能力(容量) | 1位社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
自社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) | ||
6 | 技術力 | 1位社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
自社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) | ||
7 | 専門性 | 1位社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
自社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) | ||
8 | 対応できる廃棄物範囲の広さ | 1位社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
自社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) | ||
9 | リサイクル指向 | 1位社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
自社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) | ||
10 | 将来にわたる安定性・継続性 | 1位社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
自社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) | ||
11 | 営業マンの能力 | 1位社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
自社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) | ||
12 | 廃棄物管理態勢 | 1位社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
自社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) | ||
13 | 情報発信・情報管理 | 1位社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
自社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) | ||
14 | 環境マネジメントシステムの取組み | 1位社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
自社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) | ||
15 | 企画・提案能力 | 1位社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
自社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) | ||
16 | 処理業者の取引先のスジ | 1位社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
自社 | (非常に優れている・優れている・普通・やや劣っている・劣っている・評価不能) |
(4) 解析方法
アンケート結果は,スプレッドシート形式に整理し,パソコンでの解析に供した。解析プログラムは,Excel NAG統計解析2.0アドインProfessional Edition(日本ニューメリカルアルゴリズムスグループ),Excel多変量解析ver.5.0(エスミ),その他自作マクロを用いた。
(5) 回答者の属性
回答者のうち,事業者関係者の属性(表 11,表 12)および,回答者が所属する会社の属性(表 10)を表にまとめて示した。
産業廃棄物処理業に関係する回答者の属性(表 15)および,回答者が所属する産業廃棄物処理業者の属性(表 13,表 14)を表にまとめて示した。
表 10 回答者(事業者関係者)の業種
業種 | 回答数 | 回答率 |
製造業 | 161 | 32% |
建設業 | 148 | 30% |
医療福祉業 | 105 | 21% |
卸小売業 | 86 | 17% |
総計 | 500 | 100% |
表 11 回答者(事業者関係者)の社内職位
回答数 | 回答率 | |
管理職 | 142 | 28% |
代表者 | 134 | 27% |
平社員 | 81 | 16% |
無回答 | 69 | 14% |
役員 | 62 | 12% |
施設責任者 | 12 | 2% |
総計 | 500 | 100% |
表 12 回答者(事業者関係者)が担当している廃棄物関連業務
業者選定の責任者 | 情報収集 | 業者との交渉 | 業者選定事務 | 排出工程管理 | 日常の管理 | その他 | 回答者数 | |
(百分率) | ||||||||
管理職 | 49% | 54% | 55% | 35% | 43% | 46% | 4% | |
施設責任者 | 75% | 50% | 67% | 25% | 58% | 58% | 0% | |
代表者 | 77% | 43% | 59% | 28% | 31% | 32% | 2% | |
平社員 | 21% | 53% | 52% | 41% | 31% | 56% | 2% | |
無回答 | 59% | 48% | 45% | 29% | 29% | 42% | 0% | |
役員 | 65% | 52% | 55% | 29% | 32% | 52% | 5% | |
総計 | 56% | 49% | 54% | 32% | 35% | 44% | 3% | |
(回答数) | ||||||||
管理職 | 70 | 76 | 78 | 50 | 61 | 66 | 6 | 142 |
施設責任者 | 9 | 6 | 8 | 3 | 7 | 7 | 0 | 12 |
代表者 | 103 | 57 | 79 | 38 | 41 | 43 | 3 | 134 |
平社員 | 17 | 43 | 42 | 33 | 25 | 45 | 2 | 81 |
無回答 | 41 | 33 | 31 | 20 | 20 | 29 | 0 | 69 |
役員 | 40 | 32 | 34 | 18 | 20 | 32 | 3 | 62 |
総計 | 280 | 247 | 272 | 162 | 174 | 222 | 14 | 500 |
表 13 産業廃棄物処理業者の主な取り扱い廃棄物
回答率 | 回答数 | |
建設系のみ | 29% | 61 |
工場系のみ | 35% | 74 |
建設系と工場系の両方 | 36% | 76 |
総計 | 100% | 211 |
回答率 | 回答数 | |
収集運搬のみ | 31% | 66 |
処分のみ | 15% | 31 |
収集運搬と処分の両方 | 54% | 114 |
総計 | 100% | 211 |
表 15 回答者の社内職位
回答率 | 回答数 | |
平社員 | 37% | 78 |
管理職 | 17% | 36 |
代表者 | 13% | 28 |
役員 | 12% | 26 |
施設責任者 | 2% | 5 |
無回答 | 18% | 38 |
総計 | 100% | 211 |
2 産業廃棄物処理業者の競争戦略
産業廃棄物処理業関係者に対するアンケートでは,自社の経営戦略について尋ねた。経営戦略を10項目設け,それぞれについて(実行している,心がけている,配慮していない)のいずれかを選んで貰った。単純集計と主成分分析の結果を以下に示す。
(1) 単純集計
単純集計の結果を表 16にまとめた。
表 16 産業廃棄物処理業者の経営戦略
実行している | 心掛けている | 考慮していない | |
(百分率) | |||
価格競争力を確保する | 25% | 62% | 14% |
他社とは異る処理サービスを提供する | 42% | 43% | 15% |
多様な廃棄物に対処できるようにする | 35% | 38% | 27% |
専門性を高める | 43% | 45% | 12% |
施設・機材を充実する | 32% | 45% | 23% |
営業に力を入れる | 35% | 47% | 18% |
広告や情報発信に力を入れる | 14% | 38% | 48% |
吸収合併による経営規模拡大 | 5% | 16% | 80% |
同業他社との協力関係構築 | 26% | 55% | 19% |
廃棄物処理以外の分野に軸足を移す | 21% | 35% | 44% |
(回答数) | |||
価格競争力を確保する | 52 | 130 | 29 |
他社とは異る処理サービスを提供する | 88 | 91 | 32 |
多様な廃棄物に対処できるようにする | 73 | 81 | 57 |
専門性を高める | 90 | 95 | 26 |
施設・機材を充実する | 67 | 96 | 48 |
営業に力を入れる | 74 | 99 | 38 |
広告や情報発信に力を入れる | 29 | 80 | 102 |
吸収合併による経営規模拡大 | 10 | 33 | 168 |
同業他社との協力関係構築 | 55 | 116 | 40 |
廃棄物処理以外の分野に軸足を移す | 45 | 73 | 93 |
(2) 主成分分析
主成分分析とは,多変量解析の方法の一つである。多次元空間において,最も分散の大きい軸(固有ベクトル)を求めて,その軸に沿って配置された各サンプルのポジションを解析する手法である。最初に求めた軸を第1主成分,第1主成分に直交する軸(すなわち内積がゼロになる)のうち最も分散の大きいものを第2主成分とし,第3主成分以下も同様に求めるものである。
産業廃棄物処理業関係者が回答した自社の経営戦略を主成分分析した結果を以下に図示する(図 22)。分析の対象とした変数は,主な取り扱い廃棄物種類(工場系・建設系,ダミー変数とした),主に行っている処理工程(収集運搬・処分,ダミー変数とした),自社の経営戦略(価格競争力~産廃以外に軸足を移す,各項目について0~2点の数量変数とした)の3つである。図は,第1主成分から第4主成分について,因子負荷量を相関係数限度値0.05として整理したものである。
図 22 産業廃棄物処理業者の経営戦略主成分分析結果
(3) 営業範囲が広い産業廃棄物処理業者の経営戦略
第1主成分(寄与率24%)に注目すると,プラス方向には,取り扱い廃棄物の種類と処理工程について専門特化している産業廃棄物処理業者のグループがあり,マイナス方向にフルレンジの産業廃棄物処理業者のグループがある。このうち,フルレンジの産業廃棄物処理業者は,価格競争力~産廃以外に軸足を移すまでの質問項目に設定したすべての経営戦略について積極的である。
なお,この図における各主成分スコアのプラスおよびマイナスの符号は,主成分軸の両極に標本がグループ化していることを表しているだけであって,変数値の大小を表すものではない。以下の主成分分析の図においても同様である。
(4) 専門特化した産業廃棄物処理業者の経営戦略
一方,フルレンジの業者の反対極に集まっている処理工程および処理対象廃棄物について専門化している産業廃棄物処理業者は,すべての経営戦略について消極的であることが見て取れる。第1主成分は,産業廃棄物処理業者の営業レンジの広さというよりも,経営規模の大小に沿った軸と解釈するのが妥当であろう。
(5) 生き残るための競争戦略
Porterの分析枠組みを適用した結果,産業廃棄物処理業はあらゆる方向から脅威を受けていることが明らかになったことを第1章に述べた。産業廃棄物処理業をとりまく種々の脅威の中で特に大きなものは,産業廃棄物の減少である。産業廃棄物の減少に対して,産業廃棄物処理業者側が取り得る対抗策は,業種転換あるいは拡大を目指さない収穫戦略くらいしかない。産業廃棄物処理業が衰退期もしくは成熟期に入っている現在,産業廃棄物処理業者のうち生き残るのは,そのことを認識し,それに対応した戦略をとる者だけである筈である。
アンケートからは,多くの産業廃棄物処理業者が価格競争力の維持についてあまり積極的でないという結果が得られた。このことは,従来の通念に反する。すなわち,産業廃棄物の取引においては,買い手(事業者)にとっての物理的効用は,溜まった廃棄物が無くなれば良いだけであり,買い手の関心は価格以外の処理の質などには向かわず,そのために産業廃棄物処理市場は価格競争に向かうという通念である。このことについては,さらに詳しい分析が必要である。
上記第1主成分に沿って分布する産業廃棄物処理業者の経営戦略は今後の産業廃棄物処理業界の行方について示唆するものがある。経営資源に富む大規模な産業廃棄物処理業者には,業をとりまく脅威に対抗するために種々の対策(経営戦略)を講じている一方で,小規模な者では十分な対策を取っていないケースが多くあり,このことがこれからの産業廃棄物処理業者間での生き残り競争にどのように影響するか興味深い。
質的な差別化戦略の萌芽については,特にフルレンジ業者と,それと対照的な工場系産業廃棄物に特化した業者において顕著に見られることが分かった。産業廃棄物処理業者の経営戦略のうち,「他社とは異なるサービス」と「専門性を高める」という回答に注目すれば,これら変数は第1主成分(寄与率24%)に出現しているフルレンジ業者,第2主成分(寄与率11%)に現れている工場系廃棄物の処分のみを行っている者,第3主成分(寄与率10%)に現れている工場系廃棄物の処分のみを行っている者,そして第4主成分(寄与率9%)の工場系もしくは建設系のいずれか一方の収集運搬と処分の両方を行っている産業廃棄物処理業者と関連づけられる。これらは,環境保全の要求がますます厳しくなる現状に対応する姿勢の者と理解できるだろう。
3 事業者による産業廃棄物処理業者選択行動
事業者関係者に対するアンケートでは,事業者が産業廃棄物処理業者を選択する際の評価基準について知るための質問項目を設けた。その1つは,処理価格~業者間ネットワークまでの10項目を並べ,そこから産業廃棄物処理業者を選ぶ際に重用視する項目を選択して貰うものである。あと1つは,優秀だと考える産業廃棄物処理業者の名前を挙げて貰い,優秀業者について処理価格~取引先のスジまでの16項目を(非常に優れている,優れている,普通,やや劣っている,劣っている,評価不可能)の6段階の評価を付けて貰うものである。
(1) クロス集計
回答者の所属する会社の業種別,および社内職位別に表に整理して示す。すべての職位すべての業種において最も重視されるのが,処理価格であることが分かった。このことは,産業廃棄物処理業者の選択過程に関するこれまでの通念を裏付けるものである。これに次いで,「経歴・実積」,「スタッフの能力・対応」が重視されていることがわかった。
表 17 事業者が産業廃棄物処理業者を選ぶに際して重要視する項目
職位/業種 | 処理価格 | 会社規模 | 社会的評判・イメージ | 経歴・実績 | 経営者の姿勢・人柄 | スタッフの能力・対応 | 施設・機材 | 立地 | リサイクル能力 | 業者間ネットワーク | その他 |
職位別 (百分率) | |||||||||||
管理職 | 80% | 21% | 38% | 59% | 34% | 42% | 34% | 20% | 35% | 11% | 6% |
施設責任者 | 92% | 17% | 33% | 33% | 25% | 25% | 17% | 25% | 50% | 0% | 0% |
代表者 | 87% | 19% | 41% | 44% | 25% | 44% | 21% | 16% | 28% | 4% | 3% |
平社員 | 81% | 25% | 36% | 51% | 27% | 53% | 30% | 28% | 30% | 7% | 1% |
無回答 | 81% | 23% | 25% | 32% | 23% | 36% | 23% | 17% | 19% | 6% | 1% |
役員 | 84% | 24% | 39% | 40% | 24% | 52% | 21% | 32% | 32% | 10% | 3% |
計 | 83% | 22% | 37% | 47% | 28% | 44% | 26% | 21% | 30% | 8% | 3% |
(回答数) | |||||||||||
管理職 | 113 | 30 | 54 | 84 | 48 | 60 | 48 | 28 | 50 | 16 | 8 |
施設責任者 | 11 | 2 | 4 | 4 | 3 | 3 | 2 | 3 | 6 | 0 | 0 |
代表者 | 117 | 26 | 55 | 59 | 34 | 59 | 28 | 21 | 38 | 6 | 4 |
平社員 | 66 | 20 | 29 | 41 | 22 | 43 | 24 | 23 | 24 | 6 | 1 |
無回答 | 56 | 16 | 17 | 22 | 16 | 25 | 16 | 12 | 13 | 4 | 1 |
役員 | 52 | 15 | 24 | 25 | 15 | 32 | 13 | 20 | 20 | 6 | 2 |
計 | 415 | 109 | 183 | 235 | 138 | 222 | 131 | 107 | 151 | 38 | 16 |
業種別 (百分率) | |||||||||||
建設業 | 83% | 24% | 29% | 43% | 24% | 45% | 34% | 39% | 28% | 11% | 4% |
製造業 | 81% | 16% | 37% | 50% | 28% | 42% | 27% | 24% | 38% | 5% | 2% |
卸小売業 | 84% | 20% | 40% | 37% | 30% | 37% | 16% | 8% | 26% | 9% | 2% |
医療福祉業 | 86% | 30% | 45% | 57% | 30% | 53% | 22% | 4% | 26% | 5% | 4% |
計 | 83% | 22% | 37% | 47% | 28% | 44% | 26% | 21% | 30% | 8% | 3% |
(回答数) | |||||||||||
建設業 | 123 | 35 | 43 | 63 | 35 | 67 | 51 | 58 | 41 | 17 | 6 |
製造業 | 130 | 26 | 59 | 80 | 45 | 67 | 43 | 38 | 61 | 8 | 4 |
卸小売業 | 72 | 17 | 34 | 32 | 26 | 32 | 14 | 7 | 22 | 8 | 2 |
医療福祉業 | 90 | 31 | 47 | 60 | 32 | 56 | 23 | 4 | 27 | 5 | 4 |
計 | 415 | 109 | 183 | 235 | 138 | 222 | 131 | 107 | 151 | 38 | 16 |
(2) 主成分分析
事業者が産業廃棄物処理業者を選択する際に重視する項目(ダミー変数とした)と,回答者の所属する業種(ダミー変数とした)と併せて主成分分析を行った結果を図 23に示す。第1主成分から第3主成分について,因子負荷量を相関係数限度値0.05として整理したものである。
第1主成分については,次のとおり解釈できる。建設業者のグループは,処理業者を選ぶにあたって,施設機材・施設立地など,産業廃棄物処理パフォーマンスに直接影響する項目を重視している。反対に,医療福祉・卸小売業のグループでは,評判・イメージ・経営者・スタッフといった,ファジーな評価項目を重視している。これらは,事業者が能動的に動かなくても自然と入ってくる情報である。
第2主成分については,まず,製造業のグループは,経歴実績・リサイクル能力だけを重視する一方,処理価格・会社規模・スタッフなどの項目は軽視していると見ることができる。対極の製造業以外の業種からなるグループは,価格・会社規模・スタッフなど,比較的分かり易い項目を重視している。
第3主成分における卸小売業のグルーブでは,ほぼ価格だけを評価し,産業廃棄物処理パフォーマンスに影響する他の項目を軽視するグループがある。処理業の経営者を重視していることから,恐らく事業者の側も経営者が一人で切り盛りする規模の企業であろう。反対側の医療福祉業では,価格以外の多くの項目を重視しており,産業廃棄物処理に関する知識・情報が不足していることを窺わせる。
図 23 産業廃棄物処理業者を選択する際に重要視する項目業種別主成分分析
(3) 産業廃棄物処理業者選定への組織的対応
回答者の職位(ダミー変数とした)と,担当している産業廃棄物関連の業務(ダミー変数とした)と,所属する会社の業種(ダミー変数とした)を併せて主成分分析を行い,事業者の会社内での役割分担の状況を調べた。図 24は,前の図と同様に,各主成分について因子負荷量を相関係数限度値0.05として整理したものである。
第1主成分(寄与率15%)に注目すると,マイナス側に建設業・卸小売業の選定責任者をつとめる代表者と平社員のグループがある。反対のプラス側には,製造業の役員・管理職で選定責任者業務以外の全ての処理業者選定関連業務を担当しているグループがある。
第2主成分のプラス側には,建設業で処理業者選定関連業務の全てを行っているグループがある。マイナス側には,製造業の役員・管理職であまり重要でない業務を担当しているグループがある。
以上のことをまとめて言えることは,多くの事業者で,産業廃棄物処理業者の選定に複数の人間が関わって関連業務を分担しているということである。また,一部のケース,おそらくは小規模事業者では,一人に全てが任されていることがあることと推測される。
図 24 産業廃棄物処理業者選定に関連する業務の担当状況
(4) 事業者が産業廃棄物処理業者選定にあたって評価する事項
産業廃棄物処理業者を選択する際に重視する事項に,職位や社内における産業廃棄物への関与という回答者の属性を併せて主成分分析を行うことによって,事業者における組織的対応状況の解明を試みた(図 25)。
まず,第1主成分に着目して次の通り解釈した。産業廃棄物処理業者選定への関与度(権限)が低い者は,より多くの種類の情報を求める(注[1])。産業廃棄物処理業者選定への関与度が高い者は,決め手となる情報(価格)だけを求める。第1主成分は,関与度・知識の軸に沿ったものであると考えられる。
第2主成分は,次のように解釈できる。プラスの側に位置するのは,産業廃棄物処理業者選定においても責任者に様々な任務が集中する小規模事業者のグループで,産業廃棄物処理業者選定の関与度に沿った主成分であると考えられる。このグループは産業廃棄物処理業者の選定において,能動的に探し回らなくても良い情報項目,換言すれば産業廃棄物処理業者の人的セールスによってもたらされる情報に頼る傾向がある。
第3主成分のマイナスの側に位置するのは,産業廃棄物処理業者選定の責任者が処理価格以外にも関心を持っているケースで,重視するのは第2主成分の産業廃棄物処理業者選定責任者が重視する事項とほぼ同じである。プラスの側に位置するのは,産業廃棄物処理業者選定にあたって決定権限以外の様々な任務を担当している人々で,客観的な評価項目を重視している。
以上のことは,次のようにまとめることができる。産業廃棄物処理業者選定に関する権限(関与度・知識)が強い者は,まず処理価格を重視し,次いで産業廃棄物処理業者の人的セールスによってもたらされる種類の情報を重視する。逆に権限の弱いものは,施設・機材や立地など客観的評価項目を重視することである。
図 25 事業者職位別に見る産業廃棄物処理業者選定行動
(5) 事業者の産業廃棄物処理業者選定行動
事業者に対するアンケートでは,優秀だと思われる産業廃棄物処理業者の名前を挙げて貰い,その優秀業者に対して産業廃棄物処理を委託しているかどうかを尋ねた。結果は,82%の事業者が自らが選んだ優秀業者に実際に産業廃棄物処理を委託していた(表 18)。
事業者が産業廃棄物処理業者を選択する際の行動パターンを知るために,主成分分析を行った。分析の対象とした変数は,回答者職位(ダミー変数),業種(ダミー変数),産業廃棄物処理業者選択に関する業務(ダミー変数),産業廃棄物処理業者選択に際して重視する事項(ダミー変数),優秀業者に関する評価(値0~5をとる数量変数),優秀業者への委託状況である(ダミー変数)。図 26は,各主成分について因子負荷量を相関係数限度値0.05として整理したものである。分析の結果,以下のことが分かった。
第1主成分(寄与率25%)からは次のことが分かる。建設業では,役員・管理職が種々の役割を分担し,また合理的な業者評価基準を持っている。その結果,多くの項目について満足できる処理業者を選択して処理を委託することができている。他のケースでは,代表者ひとりでやっているために,良い処理業者を選択し委託することが困難になっている。
第2主成分(寄与率5%)ではつぎのことが分かる。建設業・卸小売業の中には,価格だけを重視し,適当な処理業者にアッサリと丸投げ委託してしまうケースがある。対極的に,製造業の中には役員・管理職が種々の役割を分担し,業者評価基準も厳しいものの,実際の業者評価がうまく行かないために,全面的な委託に至らないケースが見られる。
第3主成分の解釈は次の通りである。建設業の中には,上位経営層が関与していないため,処理業者の評価が定まらず,全面委託に至らないケースがある。一方,製造業などでは,業者選定にあまり細かい作業をせず,価格だけを評価してアッサリと全面委託してしまうケースがある。
以上をまとめると,事業者の業種ごとに,産業廃棄物処理業者選択行動にパターンがあるようである。きちんとした評価基準を持ち,組織的に取り組めば,満足の行く産業廃棄物処理業者を見つけて,実際に処理を委託することが出来ていると解釈することができる。
表 18 優秀業者への委託状況
回答率 | 回答数 | |
処分だけを委託 | 10% | 51 |
収集運搬だけを委託 | 3% | 14 |
両方を委託 | 69% | 345 |
どちらも委託していない | 18% | 90 |
図 26 事業者の産業廃棄物処理業者選択行動
4 産業廃棄物処理業者のパフォーマンス評価
(1) 事業者と産業廃棄物処理業者による優秀業者の評価
アンケート調査では,優秀な産業廃棄物処理業者の名前をあげ,その優秀業者を所定の項目について評価する設問を,事業者と産業廃棄物処理業者の両方に対して提示した。つまり,優秀な産業廃棄物処理業者について,顧客と同業者の両方からの評価を試みたのである。また,特に産業廃棄物処理業者に対しては,優秀業者に関する評価項目と同じ評価項目で自社の評価もして貰うこととした。評価の結果を下に掲げた。なお,産業廃棄物処理業者の評価は次の通り数値化して縦軸にとった:非常に優れている5点;優れている4点;普通3点;やや劣っている2点;劣っている1点;評価不可能0点。
まず,産業廃棄物処理業者の回答について見ると,優秀社イコール自社という回答は,全211回答のうちの9社にとどまり,産業廃棄物処理業関係者の大部分は,自社以外にベンチマークとすべき優秀社があるという認識を持っていることが示された。産業廃棄物処理業関係者が優秀社と自社をどのように評価しているかを見ると,全ての項目について優秀社の評価が自社のそれを上回っている(図 27)。
優秀社に対して,事業者と同業者がどのように評価しているかを比較する。まず,大部分の評価項目について,同業者は事業者よりも高い評価を与えている。ただし,処理価格については例外であり,事業者による評価は同業者によるそれよりも高い。すなわち,処理価格について事業者は産業廃棄物処理業者が考えるほどにシビアではないということができる。
事業者と同業者の評価を比較の結果,もう1つの傾向が見て取れる。事業者による評価は,各評価項目について差異が小さい一方,同業者による評価は,評価項目ごとの差異が相対的に大きいことである。これは,産業廃棄物処理業者は事業者と比較して,優秀社をより詳しく見ていることによると解釈できる。つまり,産業廃棄物処理業者は同業者の高く評価すべき点と,低く評価すべき点を押さえていることを表しているのである。
図 27 事業者と産業廃棄物処理業社による優秀社の評価
(2) 産業廃棄物処理業者の評価因子
事業者と同業者から得られた優秀業者の評価データを用いて,産業廃棄物処理業者が評価される評価項目を理解・解釈しやすくすることを目的に,因子分析を行った。今回のアンケート調査では,優秀社を評価するために(1)処理価格~(16)取引まで16個の項目を挙げた。因子分析とは,これらの評価項目はいくつかの共通する構成要素の合成であると仮定し,その構成要素を得る数学的手法である。表に因子分析(主因子法)の結果をまとめた(表 19)。
因子1は,産業廃棄物処理業者のパフォーマンスのうちの非物質的アピールを表す因子であると解釈できる。これらは,事業者との関係を構築・維持するための情報的要素であり,ここでは「マーケティング能力」と呼ぶことにする。
因子2は,施設・機材などハードウェア及び処理価格という,産業廃棄物処理サービスのコア便益を実現するための基本的項目とでも言うべき部分の多くを占める構成要素である。ここでは,「具体的業務処理能力」と呼ぶことにする。
因子3は,産業廃棄物処理業者のパフォーマンスのうち,特に高度な産業廃棄物処理を実行するために必要な能力であると考えられる。ここでは,「技術対応能力」と呼ぶ。
これら因子を先に示した5段階製品モデルの枠組み(図 9)にあてはめて考えると,中心に近い順に,(1)具体的業務処理能力,(2)技術対応能力,(3)マーケティング能力,という順番になるであろう。
表 19 産業廃棄物処理業者の評価項目の因子分析結果
(3) 評価が集中する産業廃棄物処理業者
アンケートでは,事業者と産業廃棄物処理業社に対する質問で,優秀な産業廃棄物処理業者を1位から3位まで3つ挙げて貰うようにした。アンケート結果をまとめた表 21では,優秀な処理業者の名前が1位から3位までのいずれかに出現した数を得票数とした。また,処理業者名が1位で出現した場合に3点,2位の場合は2点,3位は1点の重み付けをしたものを得点とした。
集計の結果,延べ990の産業廃棄物処理業者名が挙げられた。ここから複数得票を整理したところ,751の異なる産業廃棄物処理業者となった。注目すべきは,A社とT社である。この2社は,事業者と産業廃棄物処理業者の両方の回答において,得票上位に位置づけられる。表 20に示すとおり,事業者による選択ではそれぞれ11票と6票を得ているが,産業廃棄物処理業者による選択においても11票と5票の得票をあげて優秀業者の上位に位置している(注[2])。A社とT社を「高いブランド力を確立しつつある産業廃棄物処理業者」として以降の議論の課題とする。
表 20 優秀社の得票および得点状況
表 21 優秀業者の得票分布状況
脚注
(注[1])余田拓郎,首藤明敏『B2Bブランディング – 企業間の取引接点を強化する』,日本経済新聞社,2006年,65-67ページから,産業財の購買意思決定に係る情報範囲に関する記述を引用する。
ビジネス財の購買プロセスでは,意思決定の情報処理に影響する要因として,購買の重要性や動機付けの強さがあげられる。これらが購買への関与を高めるとともに,十分な時間をかけた検討をもたらすとされる。つまり,購買に対する関与水準が高いほど,周辺的手がかりへの依存が相対的に低下する,と考えられる。財に関する知識を十分に有する層は,周辺的手がかりに依存する割合が相対的に低いものと考えられる。言い換えれば,評価を下すに足りるだけの財に関する知識の欠如が,周辺的手がかりに依存した意思決定を駆り立てているのである。
(注[2])事業者による選択において上位に位置するA社とT社について,産業廃棄物処理業者による選択において両者の真の得票率が3/211以下であって優秀業者リスト上位に入らないという仮説を検定したところ,有意水準0.1に対して棄却された。
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